データアナリティクスで守る生物多様性~環境DNA調査とKDDIの取り組みとは?~
9月20日に実施した、KDDI先端技術統括本部 通信基盤GX研究グループ 垣内 勇人様による生物多様性保全に関する講義内容と、ARISE analytics COO 小林との対談の様子をダイジェストでお届けします✨
環境を取りまく世界的な潮流 ~ネイチャーポジティブとは?~
いま、世界では大量絶滅時代と言われるほど生物の種類が減少し、生物多様性が棄損されています。その状況を改善するため、ネイチャーポジティブという国際目標が掲げられ、2030年までに自然の喪失を食い止め、2050年までに完全に回復させるよう各国が取り組みを行っています。
背景として、人間の活動が地球の限界を超えているという現状があります。
プラネタリー・バウンダリーという、地球環境が安定した環境を保つことのできる限界を定めた9項目がありますが、たとえば農業や漁業を支える窒素やリンをはじめとした6項目で、すでに地球の限界を超えていることがわかっています。この限界を超えると、地球の生態系が崩れ、人間が手を加えても元の状態に戻れないリスクが高まります。
経営リスクとしての環境問題
生態系が棄損されると、これまで企業がビジネスをするうえで当たり前のように使っていた自然資本が活用できなくなります。
たとえばKDDIであれば、水資源が棄損された場合、大量のデータセンターを冷却できなくなり、ビジネスに影響が出ることが考えられます。食糧生産をする農業や漁業、エネルギー業界、遺伝子資本を使う医薬品業界などではより深刻な影響が出ています。
このように、生態系の棄損は経済活動の基盤が失われることに直結するため、もはや環境問題は動物がかわいそうだから自然を守りましょうという文脈ではなく、経営における戦略的リスク管理の問題として位置づけられています。
投資を集めるには:サステナビリティへの取り組みがカギ
環境問題が経営リスクであることから、投資家からどれくらい事業リスクがあるか、開示することが求められています。それに伴い、各企業のサステナビリティに対する取り組みを評価する指標も多くつくられています。
たとえば、米国のMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル社)が、ESG(環境・社会・ガバナンス)におけるリスクをどの程度管理できているかを評価するMSCI ESG格付けは、ESG投資の世界的な評価指標として多くの機関投資家に使われています。また、企業のサステナビリティに関する取り組みについてアンケートを行い、その内容をもとに格付けを行うCDP(Carbon Disclosure Project)などの評価機関もあります。
また、国際会計基準(IFRS)財団ではサステナビリティ開示の世界標準を作成しており、日本でもその基準に準拠して、有価証券報告書でのサステナビリティ開示義務化の取り組みを金融庁主導で進めています。
生物多様性の保全に向けた、KDDI総合研究所の取り組み:環境DNAとは?
企業のサステナビリティへの取り組みがグローバルで求められる中で、KDDI研究所では、環境DNAを活用した生物多様性保全の研究を行っています。
環境DNA調査とは、採取した水から、どんな魚がどれくらい生息しているか解析する技術のことです。魚に限らず、空気から昆虫を特定する研究もおこなわれていますが、現在最も実装が進んでいるのは魚となります。
これまで生物がどこにどれだけ生息しているか特定するためには、船を出して魚を捕獲する必要がありましたが、DNAデータのアナリティクス技術を活用することで、水を採取するだけで魚の種類や個体数の目安がわかるようになりました。それにより、生物多様性保全に向けた、DNA量による現状の定量的な把握に貢献しています。
環境DNA調査には2つ方法があります。1つは定量PCR法といって、たとえば特定の川に鮎がどれくらい生息しているか知りたいときに使います。新型コロナウイルスの影響で奇しくも知名度が上がったPCR検査と同様、採取したDNAを増幅させることで調査を行います。
2つ目に、メタバーコーデング法といって、特定の水域にどんな種が生息しているか網羅的に把握できる手法があります。
メタバーコーデング法では、採水サンプルに含まれる環境DNAから魚のDNAを読み取り、データベースと照合することで、特定の水域に住む魚のリストを作成することができます。
魚のビックデータが蓄積されたANEMONE DBとドローン活用
魚のDNA情報は、ANEMONE DBという、環境DNAビックデータを蓄積したデータベースを参照しています。
ANEMONE DBでは、企業や市民ボランティア、大学などが採取した海水を用いて、環境DNA調査を行い、その水域に生息する魚の情報をデータベース化し、オープンデータとして一般公開しています。
ANEMONE DBの活用を推進するANEMONEコンソーシアムという団体があり、現在KDDI、KDDI総合研究所とKDDIスマートドローンが会員となり、環境DNAのデータ活用や、ドローンを活用した環境DNA用の採水技術などの、社会実装に向けた活動をしています。
これまで採水は人の手で行っていて、手間のかかる作業だったため、その作業を自動化したいというニーズがあります。また人が採水すると、DNAのコンタミネーション(混入)によって正確な結果が出ないリスクがあるため、ドローンを使って多地点の採水ができる仕組みづくりに取り組んでいます。
このように、ドローン等を活用し、環境DNA調査を普及させていくことが、生物多様性を守ることにつながると考えています。
小林とのパネルディスカッション
小林がslackのARISE university実況部屋のコメントを拾いながら、社員からの質問に回答しました。また、垣内様とディスカッションを行い、講義を盛り上げました✨
勉強会では70名の方にご参加いただきました!ありがとうございました!
おわりに
本記事では、魚のDNA情報のデータ分析を行うことで、魚の種類や生息状況や把握する環境DNA調査を紹介しました。環境DNA調査では、他にも以下のようなアナリティクス技術が使われているそうです・・・!
・次世代シーケンシング(NGS)データの解析
※データを迅速に解析し、有意なパターンや異常を検出する
・データの前処理やクレンジング技術
※生物学的データはしばしばノイズや欠損値を含んでおり、そのままでは解析が困難でデータクレンジングが必要
上記の技術や知見がなく、困っている企業がたくさんいるそうなので、ARISEが活躍できる機会があるかもしれません・・・!
最後に、ネイチャーポジティブや環境DNA調査についてもっと知りたい!という方のために、垣内様のおすすめ本を紹介します!
・ESGとTNFD時代のイチから分かる 生物多様性・ネイチャーポジティブ経営
・環境DNA: 生態系の真の姿を読み解く
最後までご覧いただきありがとうございました!
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